先週末に発表された米国4月の失業率は6.3%、非農業部門雇用者数は28.8万件の増加と、いずれも市場予想より良い内容となり、ドル/円は103.01円まで上昇しましたが、労働力人口が80.6万人の減少、労働参加率が0.4%低下の62.8%、平均時給は前月比横ばいとイエレン米FRB議長が注目している雇用の中身の改善には至っていないようです。ただ、その一方で、非農業部門雇用者数の広範囲な増加や過去2か月の修正も併せると30万件以上の増加は雇用の力強さを示しているとみられますので、中長期の視点に立てば、物価上昇が伴ってくると、米国の利上げの前倒しの可能性が高くなってきます。今回の統計数字のFRBの見方に関しては、7日にイエレン米FRB議長が合同経済委員会で証言をすることになっていますので、そこで考え方が示されると思います。雇用統計の各数値は下の表を参照してください。
■非農業部門雇用者数(単位:千人)
項目 | 2月 | 3月 | 4月 |
雇用者数増減 |
+222 |
+203 |
+288 |
雇用者数 |
137,761 |
137,964 |
138,252 |
財生産 |
18,924 |
18,953 |
19,006 |
民間サービス |
96,984 |
97,157 |
97,377 |
政府 |
21,853 |
21,854 |
21,869 |
失業率 |
6.71% |
6.71% |
6.27% |
労働参加率 |
63.0% |
63.2% |
62.8% |
source:U.S. Bureau of Labor Statistics
一方、週末になるとウクライナ情勢が緊迫化する傾向がありますが、混乱が南部のオデッサに波及したことで、リスク回避の動きにつながっています。2日にはオバマ米大統領とメルケル・ドイツ首相がワシントンで会談し、5月25日のウクライナの総選挙が阻害されればロシアに厳しい追加政策を課す構えを示しました。ただ、両国ともにエネルギー分野の制裁には消極的なことやどの分野が制裁対象となるかを明らかにしていないことで、不透明感から積極的にリスクをとれる環境にないため、為替市場では豪(RBA)、英(BOE)、欧州(ECB)の金融政策などが発表されるものの、方向感の出にくいレンジの取引が続く可能性が高いと思われます。
【 EUR/USD 】
ウクライナでは東部に続き南部のオデッサでもロシア系の武装勢力と暫定政権を支持するグループが衝突し、少なくとも40人が死亡、暫定政権が発足以来の惨事となっています。南部ではロシアに編入されたクリミア同様にロシアに編入を求めている隣国モルドバの沿ドニエストルがあり、ウクライナを超えてロシア系の武装勢力が拡大すると、地政学的リスクの拡大となり、ユーロへの懸念につながる可能性がありますが、市場はウクライナ情勢をあまり材料視しない傾向が続いていて、オバマ米大統領とメルケル・ドイツ首相との会談でも、エネルギー関連への制裁が消極的であるため、判断ができないものと思います。ただ、5月25日のウクライナの選挙実施が先送りや中止となるようだと、欧米などのウクライナ支援に影響が出ることが予想されるため、ユーロの弱含みの材料となりそうです。
と発言、米国も英国・ドイツ・イタリア・フランスの4か国と電話会談を実施するなど、対 一方、来週8日(木)にはECB理事会が予定されています。先週発表されたユーロ圏4月消費者物価指数は前年に0.7%と市場予想よりは下振れ(ただし、3月確報の0.5%よりは上)したことで、市場の一部では、ECBの追加緩和示唆への期待を持ったかもしれません。ただ、前回のECB理事会後のドラギECB総裁の記者会見は
- 更なる金融緩和政策を排除せず
- ECBは必要に応じて非伝統的措置を活用することについて全会一致
- 基調的な物価上昇圧力は抑制されている
- 最近の情報は低インフレが長期化するとの予想に一致
- 金利は長期にわたって現行かそれ以下の水準に維持すると予想
とハト派的な発言をしていますが、同時に
- 緩やかな景気回復が予想通り進んでいる
- デフレリスクが高まったとは思っていない
- インフレは2015年に次第に上昇する
- インフレリスクは概ね均衡している
- インフレ率は2015年から徐々に上向き、16年末までに2%近くになると予想
とも発言、現在の消費者物価指数では追加緩和には踏み切らいないと思いますし、示唆する発言もないものと思います。気をつけたいのは前回理事会で「長期流動性供給オペ(LTRO)や証券市場プログラム(SMP)の不胎化措置停止を少し協議した」とも発言しているため、SMPの不胎化措置停止の可能性は常に残っているということです。手段を一つ使って効果が出なければ、限られた手段が一つ減るということですので、ECBは慎重にならざるをえないでしょう。サプライズはなく、ディスインフレ傾向継続、ユーロ圏での目立った材料がないことを考えると、ユーロもレンジを抜けるようなトレンドが出るとは思いません。ドイツ3月新規受注(7日)、ドイツ3月鉱工業生産(8日)、ドイツ2月貿易収支(9日)でドイツの指標が悪ければ、ユーロの小幅な下落につながるのではないかと予想しています。
テクニカル分析ではユーロ/ドルは一目均衡表(日足)の雲でサポートされる状態が続いています。レンジで推移している中で、ストキャスティクス(スロー)は%Dが70を超えてきています。デッドクロスをした場合には、短期的に下落する可能性がりそうです(強いトレンドが出た場合は別)。引き続き、4/11高値の1.3904ドルと一目均衡表(日足)の基準線の1.3788ドル近辺のレンジでしょう。
【 USD/JPY 】
週前半は本邦企業が大型連休ということで、市場参加者が少ないことから、本邦実需の買いが出にくいことを考えると、米雇用統計などのイベント終え、ウクライナの地政学的リスクで102円台前半に押し戻された流れから考えると、上値が重く、101円ミドルから前半を試しに行くことが予想されます。米国で6日(火)の貿易収支、7日(水)のイエレン米FRB議長の議会証言、8日(木)の米新規失業保険申請件数が材料となると思いますが、イエレン議長は、
- 規模の小さい銀行が回復しているのは経済が改善されている兆しである -5/1
- 低い利益率は小規模な銀行のトップラインに圧力をかける -5/1
- FOMCは景気見通しに変化があれば資産購入ペースを調整する用意がある -4/17
- 雇用とインフレが目標を達成しなければ低金利は長期化する -4/17
- 米雇用市場の回復は極めて遅い -4/17
- 短期金融市場の残存安定リスクへの対処のためにFRBは追加措置を検討している -4/15
- 経済は異例の支援をしばらくの間必要とする -3/31
- 経済や労働市場はかなり緩みが存在している -3/31
などとこれまで発言しています。議会証言でもこれを踏襲すると思いますので大きなサプライズはないと思いますが、ハト派的な内容となることから、ドル/円の103円方向への上昇は難しいのではないでしょうか。
テクニカル分析では4/8以来となる一目均衡表(日足)の雲の上抜けに失敗(引値は雲の下)、遅行線はロウソク足の下に抜け出てきました。このため、先週サポートとなっていた102円を下に抜けると、4/11安値の101.32円近辺まで下落するものと思います。週足を見ていますと、2月の上旬に100.75円まで下落した以降は101.20円から104.10円のレンジの動きを続けていますが、ぼりんじゃーバンドを見ると、2月の下旬から3月上旬のバンド幅よりは広くなっていますので、まだトレンドを作るほどのエネルギーが溜まっていないとも言えそうです。
■今週の予想レンジ
Ccy | Low(下) ~ High(上) |
EURUSD |
1.372 ~ 1.397 |
USDJPY |
101.3 ~ 103.8 |
GBPUSD |
1.671 ~ 1.705 |
AUDUSD |
0.915 ~ 0.923 |
NZDUSD |
0.852 ~ 0.878 |
■重要イベント
5/5(月)
18:00ユーロ圏 3月 卸売物価指数(PPI)
23:00米国 4月 ISM非製造業景況指数(総合)
5/6(火)
16:50フランス 4月 サービス部門PMI改定値
16:55ドイツ 4月 サービス部門PMI改定値
17:00ユーロ圏 4月 サービス部門PMI改定値
18:00ユーロ圏 3月 小売売上高
21:30米国 3月 貿易収支
5/7(水)
08:50日本 日銀・金融政策決定会合議事要旨
15:00ドイツ 3月 製造業新規受注
15:45フランス 3月 鉱工業生産指数
15:45フランス 3月 貿易収支
21:30米国 1-3月期 四半期非農業部門労働生産性速報値
23:00米国 イエレン米連邦準備理事会(FRB)議長議会証言
04:00米国 3月 消費者信用残高
5/8(木)
未定中国 4月 貿易収支
15:00ドイツ 3月 鉱工業生産
20:45ユーロ圏 欧州中央銀行(ECB)政策金利
21:30ユーロ圏 ドラギ欧州中央銀行(ECB)総裁定例記者会見
21:30米国 前週分 新規失業保険申請件数
5/9(金)
08:50日本 4月 外貨準備高
15:00ドイツ 3月 貿易収支
15:00ドイツ 3月 経常収支
15:45フランス 3月 財政収支
23:00米国 3月 卸売在庫
※m/m = 前月比、q/q = 前期比、y/y = 前年比
経済指標の詳細はFXmuseumのFXカレンダーを参照してください。