3/16 今週の見通し-クリミア緊迫化は必至も、影響は不透明-
2014/03/16
週末の為替市場はウクライナのクリミア自治共和国の住民投票を16日に控える中で、14日に行われたケリー米国務長官とラブロフ・ロシア外相との会談は米側がクリミアの自治拡大や国際監視団の派遣による打開策を提案したものの、ロシア側は「プーチン大統領は住民投票が行われるまで何も決定しない」と平行線となり、ケリー国務長官は「住民投票が実施されれば、制裁を科す。(ただし)外交の余地が残されるなら、制裁(の強弱)は調整される」とロシア(プーチン大統領)に平和的な解決の決断を強く迫ったのに対して、ラブロフ外相は「ロシアにとってのクリミアは、英国にとってのフォークランド諸島以上の意味がある」と語り、対ロ制裁を「非生産的だ」と牽制しました。国連安保理では、クリミア自治共和国が実施する国民投票は無効との決議案がロシアの拒否権で否決(中国は棄権)されています。
現在の情勢では、ロシア系住民が60%以上を占めているため、賛成多数でロシアへの編入が承認される見通しとなっています。ロシア軍がクリミア半島に隣接するヘルソン州を一時侵入したとの報道もあり、ウクライナ暫定政府は「ロシアの軍事介入を阻止するために我々は必要な手段を講じる」と反発し、緊張感が高まっているため、住民投票の結果を受けた後に緊張感が高まることが予想され、週明けの東京市場は株価の下落と円が買われる可能性高いと思われます。
中国人民銀行は17日(月)から人民元のタイトル相場の変動幅を2%(これまで1%)に拡大することを発表しました。市場では人民銀行による為替介入が減るとの見方を示しています。また、中国が最近の人民元の下落や米国の緩和縮小方向から、変動幅の拡大の好機となったと分析しています。足許での為替市場への反応は限定的にとどまるものと思っています。
【ドル/円】
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先週11日の黒田日銀総裁の記者会見では景気判断を「緩やかな回復を続けており、このところ消費税率引き上げ前の駆け込み需要もみられている」とし「必要に応じて政策の調整を行う」と従来の発言を繰り返しました。追加緩和のないことは既に織り込まれていたため、影響は限定されました。一方、週後半のウクライナ(クリミア自治共和国)での地政学的リスクの高まりからリスク回避の円買いの動きにドル/円は101円台前半へと下落しました。市場はクリミア自治共和国の住民投票での独立、ロシア帰属までは織り込んでいるものの、ウクライナ東部でのクリミア支持者と暫定政権支持者の衝突の拡大やロシアの軍事介入の懸念が高まるようだと、リスク回避の円買いの動きが活発化することになりそうです。
クリミア問題が落ち着くとは思えませんが、大きな混乱がなく、自体が膠着状態になれば、米国のFOMCや経済指標が注目されると思います。特に18-19日に開催されるイエレン米FRB議長の下でのFOMCはフォワードガイダンスが定性的に見直される公算が大きいため、FOMCに先立って発表される米国の消費者物価指数が低下していた場合には、100億ドルの緩和縮小が継続されたとしてもドルの弱含みの要因となると思われます。また、週末のミシガン大消費者信頼感指数は市場予想より下振れ、悪天候の影響を懸念するような形となり、NY連銀やフィラデルフィア連銀の製造業景気指数も下振れするようだと、4月以降に発表される経済指標にも懸念が出てくるのではないかと思います。こうしたことを考えると、積極的にドルを買う動きにはつながらず、これまで溜まっている円ショートポジションの解消が先に来て、昨年11/10以来の100円割れを示現するかもしれません。チャートでもMACDがゼロ近傍でデッドクロスしていることや21日移動平均線を下抜けしていることなどから弱さを感じます。一目均衡表(日足)の遅行線が雲の下限の101.189円近辺が直近ではサポートと見なされますので、引値でこれを下回ると、下方トレンドが継続することになるのではないでしょうか。
【ユーロ】
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ユーロ圏の要人の発言に振り回された週となりました。
- ラウテンシュレーガーECB専務理事事:ECBにはマイナス金利の導入などさらなる行動の余地がある(3/10)
- リンデ中銀総裁:緩和的なECBの金融政策がドル高を誘発する公算(3/12)
- プラートECB専務理事:必要と判断すれば行動する。ただ、まだそのときではない(3/12)
- クーレECB理事:流動性の注入が必要となる可能性があるが、現時点では必要とされない(3/12)
- クーレECB理事:実質借り入れコストが低下しない場合、ECBは行動する用意がある(3/13)
- バイトマン独連銀総裁:低金利は永久に続けられない(3/13)
- バイトマン独連銀総裁:為替の目標を持っていない(3/13)
- ドラギECB総裁:デフレに対抗するための非伝統的な措置をとる準備があり、必要なら更なる断固たる行動をとる用意がある(3/13)
- ドラギECB総裁:ユーロ圏内外の実質金利差は縮小する見 通しであり、為替への下押し圧力となるだろう(3/13)
週前半の要人発言は、ECBに手段が残っているが、その時期ではない(ユーロ高要因)と捉えられ、ドラギ総裁の発言はユーロ高牽制発言(ユーロ安要因)と捉えられて、更にウクライナ問題がリスク要因となったことで、ユーロ/ドルは上値が重く、ユーロ/円は下落となっています。ウクライナ(クリミア)問題については上にも書いていますが、クリミア自治共和国の独立、ロシア編入はほぼ確定的であり、これに対して欧米がどのような経済制裁を行うかを市場は関心を持ってみていると思います。そうした中で、18日(火)には独ZEW景況感調査が発表されます。この景況感が大幅悪化しているようだと、ウクライナ情勢のドイツ(欧州)への影響が市場予想より大きいとみなされて、ユーロ売りにつながる可能性があります。ユーロ/ドルでは、欧州も米国もウクライナに対してはウエイトが同じのため、どちらかが一方的に売られる可能性は低いとみていますし、チャートでも、一目均衡表(日足)の転換線の1.38368ドルがサポートとなり、基準線の1.37593ドルもその下に控えていることで、底堅さが感じられます。そのため、3/13高値の1.39665ドルを上抜けると、心理的節目の1.40ドルではオプション防戦売りが待ち構えていると思いますが、これを上抜けると、2011/10高値の1.42450ドル近辺まで上昇する可能性があります。ユーロ/円に対してはリスク回避の動きでのユーロ下落につながりやすく、一目均衡表(日足)でも転換線の141.523円を下抜けして、かろうじて基準線(140.930円)と雲の上限140.948円近辺でサポートされました。遅行線がロウソク足を下抜けると、2/4安値の136.226円近辺までは抵抗なく下がる可能性もあります。
【ポンド】
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足元では、ウクライナの地政学的リスクやユーロ高などの影響で、ポンドの上値が重くなってきているようです。ウクライナ情勢があるため、英国独自の材料となる、英中銀(BOE)金融政策委員会(MPC)議事録の公表は金融政策が現状維持で決定されている以上、材料視される可能性が低く、19日(水)の失業率もフォワードガイダンスへの影響度が低下したため、結果の良し悪しのみが注目されるものと思います。先週はカーニー英中銀総裁やMPC委員から下記の発言がなされています。
- ビーンBOE副総裁:金利の引き上げは段階的となるだろう(3/10)
- ビーンBOE副総裁:更なるポンドの上昇は輸出企業にとって有益とはならない(3/10)
- カーニー英中銀総裁:雇用市場と同じように余剰能力もいくぶん堅調(3/11)
- カーニー英中銀総裁:英経済の余剰能力は1.5%を上回ると予想(3/11)
- ウィールMPC委員:英経済の余剰能力はおそらく1%を下回るだろう(3/11)
- カーニー英中銀総裁:量的緩和の出口は数回の利上げ後に開始されるだろう(3/11)
- ビーンBOE副総裁:切迫して利上げする必要はない(3/12)
これらの発言を見ると、生産能力の余剰があるため、利上げを急ぐ必要はなく、金利の引き上げも段階的となるようです。緩和縮小または利上げが近いとみていた市場心理がやや冷やされたこともあり、今後発表される経済指標が好調でなければ、上値の重たさが継続すると思われます。ポンド/ドルは一目均衡表(日足)の基準線の1.65594ドルがサポートとなっています。ただ、2/17高値が1.68209ドル、3/7高値が1.67839ドルと高値が切り下がってきているうえ、転換線も下抜けています。遅行線がロウソク足を下抜けする可能性があるため、下抜けした場合には、2/5安値の1.62495ドルと前出高値の半値となる1.65393ドル近辺まで下落する可能性があります。
【豪ドル】 (c)source: uedaharlow ltd.
先週発表された豪の新規雇用者数が大幅な伸びとなったことで豪ドルが買われましたが、中国の景気減速懸念と理財商品のデフォルト懸念などで豪ドル/米ドルの上値は重く、豪ドル/円は下落継続となりました。豪の新規雇用者数の大幅な増加はANZが発表した求人広告件数が大幅増加となっていたことを裏付けていますが、大手企業が人員削減を発表した後だけに、正規雇用者数が大幅増加となったとしても、労働時間の総計は0.9%1400万時間の減少と賃金の低下などと併せて懸念が残ります。今週は豪には目立った経済指標の発表が予定されていないことから、20日(木)発表のNZの10-12月期GDPが手掛かりとなると思います。NZドルは先週の金融政策会合で0.25%の利上げを決め、本年中も1.25%の利上げの可能性を示唆するなど、タカ派的な色彩が強い声明だったことで、GDPが市場予想を上回るようであれば、NZドル買いが継続し、ウクライナ情勢が不安定な中、地政学的リスクから距離があるオセアニア通貨が嗜好される可能性があります。ただ、株価の下落が続けば、豪ドルの下押し要因となると思っています。豪ドル/米ドルは一目均衡表(日足)の雲を抜けてからは雲の上限(0.89135ドル)でサポートされています。転換線と基準線が同値だったものが週末には転換線が僅かですが上に離れました。3/7高値の0.91325ドルを上抜けすると、昨年11/12安値の0.92687ドル近辺まで上昇する可能性があります。豪ドル/円は3/7高値の94.470円が足許では天井形成となったように見えます。一目均衡表(日足)の転換線と基準線を下抜けし、雲の上限の91.220円近辺まで一時下落してきました。遅行線はロウソク足を下抜けしてしまうと、3/3安値の90.050円近辺まで下落するかもしれません。
■今週の予想レンジ
Ccy | Low(下) ~ High(上) |
ドル/円 |
99.4 ~ 103 |
ユーロ/ドル |
1.378 ~ 1.413 |
ユーロ/円 |
138.6 ~ 143.1 |
ポンド/円 |
166.6 ~ 172.4 |
豪ドル/円 |
90 ~ 93.1 |
NZドル/円 |
85.2 ~ 88.9 |
南アランド/円 |
9.1 ~ 9.7 |
■重要イベント 3/17(月) 09:01英国 3月 ライトムーブ住宅価格 m/m 19:00ユーロ圏 2月 消費者物価指数(HICP)改定値 y/y 21:30カナダ 1月 対カナダ証券投資額 21:30米国 3月 NY連銀製造業景気指数 22:00米国 1月 対米証券投資(短期債除く) 22:15米国 2月 鉱工業生産 m/m 22:15米国 2月 設備稼働率 23:00米国 3月 NAHB住宅市場指数 3/18(火) 16:00ドイツ 2月 卸売物価指数(WPI) m/m 19:00ドイツ 3月 ZEW景況感調査 19:00ユーロ圏 3月 ZEW景況感調査 19:00ユーロ圏 1月 貿易収支 21:30カナダ 1月 製造業出荷 m/m 21:30米国 2月 消費者物価指数(CPI) m/m 21:30米国 2月 住宅着工件数 年率換算件数 21:30米国 2月 建設許可件数 年率換算件数 3/19(水) 06:45NZ 10-12月期 四半期経常収支 08:50日本 2月 貿易統計(通関ベース) 13:30日本 1月 全産業活動指数 m/m 14:00日本 1月 景気先行指数(CI)改定値 14:00日本 1月 景気一致指数(CI)改定値 16:45フランス 1月 経常収支 17:00南ア 2月 消費者物価指数(CPI) m/m 17:15日本 黒田東彦日銀総裁講演 18:30英国 英中銀金融政策委員会(MPC)議事要旨 18:30英国 2月 失業保険申請件数 18:30英国 2月 失業率 18:30英国 1月 失業率(ILO方式) 19:00ユーロ圏 1月 建設支出 m/m 20:00南ア 1月 小売売上高 y/y 21:30カナダ 1月 卸売売上高 m/m 21:30米国 10-12月期 四半期経常収支 03:00米国 米連邦公開市場委員会(FOMC) 03:30米国 イエレン米FRB議長定例記者会見 3/20(木) 06:45NZ 10-12月期 四半期GDP q/q 16:00スイス 2月 貿易収支 16:00ドイツ 2月 生産者物価指数(PPI) y/y 17:00日本 黒田東彦日銀総裁講演 17:30スイス スイス国立銀行金融政策 21:30米国 前週分 新規失業保険申請件数 23:00米国 3月 フィラデルフィア連銀製造業景気指数 23:00米国 2月 中古住宅販売件数 年率換算件数 23:00米国 2月 景気先行指標総合指数 y/y 3/21(金) 18:00ユーロ圏 1月 経常収支 21:30カナダ 1月 小売売上高 y/y 21:30カナダ 2月 消費者物価指数(CPI) y/y 00:00ユーロ圏 3月 消費者信頼感(速報値) 経済指標の詳細はFXmuseumのFXカレンダーを参照してください。
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