マーケット分析レポート
S&P500
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米大統領選挙が近づくなか、S&P 500も11月の初めは好調に推移しましたが、選挙後は下落基調に転じました。この選挙後の11日続落(2.62%)は、誰が当選しようと起こたことでしょう。なぜなら、続落の理由は選挙結果ではなく、2ヶ月以内に迫る財政の崖(フィスカル・クリフ)への懸念だったからです。11月はマスコミの報道も財政の崖の問題一色となりました。そして少なくとも12月までこの傾向は続くことでしょう。市場はワシントン発のあらゆるニュースに敏感に反応したものの、政治家発言のほとんどは重大な交渉における地位を固めるためのお膳立てだと思われます。予測が壮大な夢に支配されがちなウォール街では、「現実」たるものは歓迎されない訪問者ですが、現実的には、より高い税率と税還付の減額という形で増税が行われ、歳出削減のためにあらゆる分野でのプログラムが削減され、一時解雇が予想されます。このような出来事は市場に相当程度の下方圧力となる、というのが市場でほぼ共通する認識です。その影響で米国は再び不況に陥る、とエコノミストの大半が言っています。GDPの縮小率と失業率上昇の予想は、その程度こそ異なるものの、全て厳しい将来を描くものとなりました。一方、トレーダーや投資家は次の3つのシナリオのうちいずれかが起こるだろうと考えました。(1)経済(雇用、収益、赤字)を道連れに財政の崖から落ちる、(2)土壇場で大統領と上下両院の間の妥協が成立する、または(3)米議会お得意の問題の先送りが行われる。ところが、米国の感謝祭の休日(11月22日)明けに暗い見通しが一変しました。ワシントンでプラス材料となる政治家発言が聞かれるようになり、市場が反応しました。23日のS&P 500は前日比1.30%と11月最大の上昇となりました。それ以降マーケットの動きはワシントンでの発言(および噂)に連動し、結果的にはプラス材料が上回る格好となりました。議会は予定された変更の多くを避け、問題を先送りすることができるだろうという楽観論が優勢となるなか、S&P 500は月間で0.28%と小幅な上昇を遂げました。
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出所:S&Pダウ・ジョーンズ・インデックス 2012年11月30日現在。表は図示する目的のためだけのものです。過去の運用実績は将来の運用成果を保証するものではありません。この表は、仮説に基づく過去の実績を反映している可能性があります。
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一方、企業は投資家とは全く別の反応を示しました。ワシントンでいかなる「解決策」が発表され、勝利宣言が行われたとしても、企業にとっての現実 は、その名称や手段が何にせよ、増税が実施され、顧客が厳しい影響を受け、結果的に企業の売上げと利益が縮小する、というものです。11月はレイオフをほ のめかす支出計画の縮小の発表が相次ぎました。なかでも最も顕著な反応は特別配当に関する動きに見られました。12月31日までは特別配当への課税の上限 は15%ですが、2013年1月1日からはそのおよそ3倍の43.4%に跳ね上がります。したがって企業は急いで年末の特別配当を発表し、支払いを1月か ら12月に繰り上げました。11月は特別配当の支払いが前年同期に比べて217%上昇し、法改正がない限り12月も増え続けると思われます。
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特別現金配当が発表されている米国の普通株(ファンドでない) | |||||||||
2012 | 2011 | 2010 | 2009 | 2008 | 2007 | 2006 | 2005 | 2004 | |
1月 | 31 | 24 | 37 | 27 | 44 | 50 | 30 | 27 | 25 |
2月 | 28 | 25 | 30 | 30 | 50 | 30 | 43 | 36 | 30 |
3月 | 51 | 30 | 28 | 21 | 22 | 31 | 30 | 29 | 26 |
4月 | 33 | 19 | 27 | 20 | 24 | 22 | 26 | 23 | 22 |
5月 | 34 | 31 | 26 | 20 | 37 | 31 | 34 | 25 | 29 |
6月 | 39 | 18 | 15 | 19 | 31 | 39 | 29 | 17 | 22 |
7月 | 19 | 15 | 16 | 15 | 21 | 26 | 27 | 27 | 33 |
8月 | 28 | 24 | 31 | 8 | 20 | 19 | 32 | 27 | 29 |
9月 | 28 | 25 | 33 | 17 | 37 | 37 | 29 | 24 | 22 |
10月 | 54 | 35 | 53 | 31 | 37 | 39 | 33 | 37 | 30 |
11月 | 228 | 72 | 97 | 59 | 46 | 71 | 88 | 76 | 81 |
12月 | 142 | 184 | 146 | 153 | 233 | 221 | 196 | 172 |
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11月は、S&P 500を構成する全銘柄のうち291銘柄が上昇し(平均で5.09%上昇)、うち32銘柄は10%以上の上昇を遂げています。一方、208銘柄が下落し(平均で-4.55%)、うち21銘柄が10%以上下落しました。結果がまちまちだった11月ですが、10セクターのうち6セクターが上昇しました。最も好調だったのが一般消費財・サービス分野の銘柄で、3.00%の上昇となりました。ホリデーシーズン開始時点の消費者支出額は前年の同じ時期に比べて高かったものの、伸び率は前年を下回りました。アパレルのAbercrombie & Fitch (ANF)の株価は月間で50.1%上昇したものの、年初来ベースでみると6.0%の下落となっています。ディスカウントデパートのJC Penney (JCP)は軟調で、11月は26.3%下落(年初来で49.0%下落)し、家族向けディスカウントデパートのKohl’s (KSS)は月間で16.2%下落(年初来で9.2%下落)しました。配当への増税懸念がくすぶるなか、従来より安定した配当を期待できるとされる株式は軟調でした。なかでも公益事業セクターに最も下方圧力がかかり、4.99%の下落となりました(Consolidated Edison (ED)が7.6%下落、Southern Company (SO)が7.0%下落)。電気通信サービスは0.88%下落(AT&T (T)が1.3%下落、Verizon (VZ)は1.2%下落)しました。11月に特筆すべき銘柄の一つは、家電量販店のBest Buy (BBY)でした。ホリデーシーズンにおける同社の競争力に懸念が継続するなか、月間で13.8%下落(年初来で43.9%下落)しました。世界最大手のディスカウントストアWal-Mart (WMT)は、同社の売上げへの懸念が強まるなか、4.00%下落しました。エナジー飲料業界への米政府の関与が強まるとの懸念が後退するなか、エナジー飲料メーカーのMonster Beverage (MNST)は16.6%上昇(年初来では13.0%の上昇に転換)しました。大型銘柄でも下落が目立ち、上位10銘柄のうち7銘柄が平均で1.85%下落しました。上位3銘柄のApple (AAPL)は1.79%下落、Exxon Mobilは3.32%下落、Microsoft (MDFT)は6.8%下落しました。12月に入っても、財政の崖をめぐるメロドラマが続行し、企業や株式アナリストの2013年業績予想が相次ぎ発表され、不安定な月となるでしょう。
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S&P500月例レポートでは、S&P500指数の値動きから米国マーケットの動向を解説します。市場全体のトレンドだけではなく、業種、さらには個別銘柄レベルでの分析を行い、米国マーケットの現状を掘り下げて説明します。
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S&P 500 月例レポート
執筆者
ハワード・シルバーブラット
S&P ダウ・ジョーンズ・
インデックス
シニア・インデックス・アナリスト
mailto:howard_silverblatt@spdji.com