資金豊富な日本企業は幅広い業界にわたり構造転換型の合併・買収を模索することに
ますます積極的かつ前向きになりつつあるという。東京の複数のディールメーカー(案件創造者)
が語った。
マージャーマーケットのデータによると、日本のアウトバウンド活動は2013年以降着実
に増加している。年初来の日本のアウトバウンド案件は計190件761億US ドルとなり、計258
件533億US ドルを計上した2014年通期の記録を超えている。
2015年これまでに金融サービスと産業セクターがアウトバウンド案件全体に占める割合
はそれぞれ41.49%、10.40%となっている。年初来の取引金額をみると、2014年通期と比
べ、輸送が2753%、メディアが520%、そしてビジネスサービスが96.8%の伸びを示している。
日本企業はほぼ全業界でアウトバウンド活動を増やしているが、中でも銀行・保険領域で
増えている、とグローバル・ローファームのベーカー&マッケンジー法律事務所でパートナーをつ
とめる乘越秀夫氏は語る。食品飲料、素材及び物流業界でも同様な動きが見られる可能性が高い、
と同氏は付け加えた。
複数のセクター・バンカーによると、人口が減っており成長に限りがある中で、日本の保険会社は
主に欧州やオーストラリア、米国といった先進地域の中小規模の同業者をこれまで捜し求めており、
引き続きそのような同業者を模索し買収していく。2015年9月8日火曜日、MS&AD インシュアランス
グループホールディングス(MS&AD ホールディングス)の子会社である三井住友海上火災保険が、
英国ロイズ保険市場で損害保険事業を展開するアムリンに対し33億7000万ポンド
(51億8000万US ドル)の現金による友好的な買収提案を行った。
「過去6カ月間に、住友生命、東京海上、明治安田生命が全株式を取得できる案件に取り組んでいる」
と語るのは、世界的なアドバイザリー会社ロスチャイルド・ジャパンでエグゼクティブ・ディレクターを
つとめる衛藤龍氏。こうした展開は地理的な理由から理にかなう、と同氏は述べた。
日本企業が一番気に入っている投資先は米国市場だ。今年これまでの取引金額をみると、同市場は
39.27%を占め、香港が14.92%、英国が14.53%とこれに続く。
過半数持分を望む
株式価値が2億US ドルを超える上場企業のアウトバウンド案件は2015年現在までに14件を記録し、
2014年の7件から増えている。マージャーマーケットのデータが示すところによると、
株式の内在価値(IEV)は前年よりも90%高く、案件の55%が20億US ドルを上回る。
日本企業は海外の競合先の過半数株式の取得をより一層目指している、と前出のベーカー&マッケンジーの
乘越氏はいう。これは、日本企業の大半が少数権益と合弁を求めていた過去とは違う、と同氏は語った。
2つの要因が絡みあって海外企業の全株式を取得する日本企業が増えつつある、とロスチャイルド・
ジャパンの衛藤氏は話す。ひとつは、全支配権を握り「事業を統合する」という経営陣の強い意向に
あるという。同氏はまた、売り出された株式は、単独株主が100%売却するか、ターゲットが
上場会社である場合、発行済み全株式を対象とするTOB(株式公開買付)が義務付けられる場合が多い、
と述べた。
「日本企業はグローバル企業を目指しており、買収を通じたグローバル・トランスフォーメ
ーション(グローバルレベルでの組織の変容)には段階が3つある」とベーカー&マッケンジー法
律事務所でパートナーをつとめる近藤浩氏は、同所が先週東京で主催した「How companies
have achieved global status」(企業はいかにして世界的な地位を獲得したか)と題したカンファ
レンスで発言した。
グローバル・トランスフォーメーションの第1段階において、日本企業は中規模な買収を通じた
グローバル化を目指すとともに先端技術と人材へのアクセスを狙う。第2段階で、企業はグローバル
競争に精通した優秀な経営陣と従業員の獲得が不可欠だと実感する。最終段階では、買収とPMI
(買収後の統合)に加え、本格的に本社の経営管理を変える必要があることに気付く。
武田薬品工業(TYO:4502)はそのような転換型統合の好例のひとつで、資生堂(TYO:
4911)やLIXIL グループ(TYO:5938)などの企業は第3段階にいるといえるかもしれない、
と近藤氏は述べた。
非従来型メディア案件の増加
日本最大の経済日刊紙を擁する日本経済新聞社は7月、英国のフィナンシャル・タイムズ・グループを
8億8400万ポンド(13億US ドル)で買収することに合意した。この案件で、伝統的な日本企業も
グローバルな機会を積極的に追求していることが明らかになった、と前出の複数のセクター・バンカーはいう。
ただしこの買収劇は「散発的」に思え、新聞や雑誌、テレビ、ラジオといった他の日本の従来型メディア
企業がこれに追随する可能性は低い。
日本経済新聞社はアジアでの足場構築を目指して2013年に英語版配信に乗り出したが、内部成長に
おいてはまだ世界で確固たる存在感を確立していない、とこれらバンカーのうちの1人が語った。
ロスチャイルドの衛藤氏はこの見解に同調し、日本経済新聞社とフィナンシャル・タイムズ・グループの
焦点は境界線が存在しないビジネスと金融にあるため、国際的なメディアの買収は戦略的には意味を成すとし、
本案件は例外かもしれないと語った。他の従来型メディアは国内市場に焦点を当てたままだ。さらに、
進行中の両社間の提携が買収を容易にした、と同氏は付け加えた。
とはいえ、広告といったメディア業界の他の分野は日本のストラテジック・インベスターの
ターゲットになりそうだ、とこれらのバンカーは語った。
例を挙げるなら、広告大手の電通は2013年に英国のイージスを約50億US ドルで買収して以来、
世界中で精力的に広告業界の同業者を買収している、と前出のベーカー&マッケンジ
ーの乘越氏は語った。