「トランプ・ラリー」と米利上げ加速期待でドルが上昇する一方、新興国通貨は安値圏での推移が続いています。ただ、インドルピーは今後の経済成長見通しを背景に、目先は底堅い値動きとなるかもしれません。足元の混乱の要因となった高額紙幣の廃止措置は、マネーを揺り動かすという点で効果が期待されています。<br/><br/><br/>インドのモディ首相は11月8日夜にテレビ演説し、1000ルピー紙幣と500ルピー紙幣の2種類を廃止し、新500ルピー紙幣と新2000ルピー紙幣を発行するという措置を電撃的に発表しました。1000ルピーは円換算すると約1600円と、額面ではそれほど高いとは思えませんが、使用不能になる前に高額紙幣をATMなどで預金しようと多くの人が殺到したようです。日本ではまったく考えられない措置で、よく暴動などに発展しなかったと思います。<br/><br/><br/>翌日からインドの市場ではこうした突然の発表に懸念が広がり、混乱が続きました。ドル・ルピーは2013年8月につけた過去最高値の68.82ルピーを更新し、11月24日の外為市場で68.90ルピーまで上昇。インド準備銀行はルピーの急落を抑えるため為替介入に踏み切ったほか、影響を見極めようと12月7日には利下げ予想に反して政策金利の据え置きを決めています。その後、懸念はまだ続いているものの、高成長が見込まれるインド経済が見直され足元ではやや落ち着きを取り戻しています。<br/><br/>こうした思い切った政策が地下経済に眠る現金を揺り動かしたのは確かなようです。高額紙幣廃止の狙いは、蔓延している汚職と脱税のため銀行口座に預金されず、現金のまま保有されている富裕層の隠し資産をあぶり出すことです。米金融機関の試算によると、インドの地下経済の規模は、約2兆ドルにのぼる国内総生産(GDP)の2-4割、ほぼ4000億ドル-8000億ドルとされています。その後11月末までに1000億ドルが市中銀行に預けられた、と経済紙が報じていました。<br/><br/><br/>高額紙幣に目を向けると、主要国では500ユーロ紙幣(約6万円)、1000カナダドル紙幣(約8万5000円)、1000スイスフラン紙幣(約11万円)などが挙げられます。このうち、500ユーロ紙幣に関しては、実際に廃止が検討されているようです。世界一の高額紙幣1万シンガポールドル紙幣(約80万円)は、市中には出回っているものの2014年10月に発行が中止されました。<br/><br/><br/>高額紙幣廃止は現金による支払いの制限として個人の権利の侵害につながる恐れがあります。また、犯罪防止という大義名分の下、金融機関を通じた監視国家に近づくとの解釈も可能でしょう。一方で、今回のインドのように地下経済を一掃という効果も期待されています。金融緩和が実を結ばない国でマネーを流動化させる新たな「金融政策」として、2017年は高額紙幣の廃止が注目されるかもしれません。インドのケースはその試金石でもあります。<br/><br/>(吉池 威)<br/>

<MT>


US Dollar vs INR (FX:USDINR)
FXチャート
から 4 2024 まで 5 2024 US Dollar vs INRのチャートをもっと見るにはこちらをクリック
US Dollar vs INR (FX:USDINR)
FXチャート
から 5 2023 まで 5 2024 US Dollar vs INRのチャートをもっと見るにはこちらをクリック