■事業の沿革<br/><br/>アイ・アールジャパンホールディングス<6035>の主力事業は、株主判明調査から立ち上がり、さらに顧客からの要望を受け、株主総会関連業務へと発展してきた。1997年当時ソニー<6758>から、「株主総会の直前まで定足数が集まらない。議決権が集まらない」という相談を受けた。同社は、当時の株主名簿は役に立たないということを実感し、ソニーからの株主総会の委任状収集、議決権確保のため、外国人株主を特定して議決権を行使させるという依頼を受けた。これがSRコンサルティング事業として成長していった。それ以降、同社は大手電気機器メーカーや大手製薬会社からの依頼を受けている。<br/><br/>依頼された調査の過程で、株主名簿の外国人が実際は誰なのかを特定し、議決権行使の流れを押さえることができた。それらの調査で判明したことは、まずは年金スポンサーが最も大事であること、次に運用機関、ノミニー名義のカストディアン(管理信託銀行)が重要な外国人株主であるということであった。なかでも、カストディアンは運用機関のすべてのパフォーマンス、配当の管理を行っており、その先に常任代理人がいる。当初は実質株主を判明しようとしたが、なかなか聞き出すことができなかった。当然ながら、機関投資家から特定企業の株主かどうかを聞くのは非常に困難な作業であったと言えよう。<br/><br/>しかしながら、独立系の同社は、ソニー本体から委任状を得ていたので、それを示すことで協力を得ながら調査を進めることができた。あくまでクローズドの情報なので、ということで調査協力の成果を上げていったようだ。実質株主を探り出すためのチェーンを全部紐解いていくため、同社社員が自らロンドン、ニューヨークに赴いた。それでも当初は外国人株主の行使率が若干上がったのみだったので、さらに問題点を解決するため自力での株主判明調査を始めた。このことが結果として、同社の基盤となる日本流の議決権確保と議決権行使の流れを確立することにつながったようだ。<br/><br/>その後は、大手自動車メーカーや大手輸送機器メーカーなどブルーチップ銘柄についてはほぼ依頼を受け支援してきた。このような経験から、国内では、同社のみが自力で株主判明調査ができる会社へと成長した。同業他社は外国の株主判明調査を購入している状況だ。この業務は、機関投資家はどれだけ持っているかという非公開情報を扱うこともあり、顧客企業のトップと会える機会も多い。しかも、村上ファンド問題などもあり議決権を確保するための支援ビジネスが認知され広がってきた。これが、SR支援に特化し、今なお強みを保っている同社の原点だ。また、同社は自前主義にも特徴があり、これまでの調査情報をデータとして蓄積しており、同社の圧倒的なコアコンピタンスとなっている。<br/><br/>改めて注目すべきポイントは、実質株主名簿は同社のビジネスにおいて非常に重要だということだ。プロキシーファイトでは必ず、A vs. Bという対立軸で戦うことになる。会社法では誰が株主総会を開いてもいいが、日本では事実上は証券代行がないと総会を開くことができない。例えば、臨時株主総会において、証券代行が作る株主名簿を持たない側は相手側により開催を先延ばしにされることがある。<br/><br/>後で紹介するメディネット<2370>のケースは、同社が自社で証券代行業務をやることによって成果が出た例だ。メディネットでは取締役会がオーナーを追放し、追い出されたオーナーは株主総会も開けない状況に陥った。同社はメディネットのオーナー側を支援し、株主が横浜地方裁判所に株主総会招集許可の申立をして許可を得た。それが引き金となり最終的には、会社側開催の臨時株主総会の開催を促した。会社側開催の株主総会は、スケジュールが会社側に有利に運ばれるうえ、旧来の証券代行は会社側の味方で株主側についてくれなかった。証券代行を変更するにも解約手数料が高く、なかなか変更ができないという実態もある。<br/><br/>同社はこれまでの実績から、法曹界からの紹介も多い。また、機関投資家との関係でも、日本株の議決権を行使する担当者を熟知しており、関係強化を図っている。海外の運用会社もピンポイントで押さえている。こうしたことから、実質株主判明調査の利用企業はすそ野を広げてきており、近年ではライツ・オファリングなどの資本政策のアドバイザー業務にもつながっている。<br/><br/>代表的な最近の事例では、大手電気機器メーカーであるファナック<6954>のIR・SR業務を支援している。2015年3月24日のファナックの開示によると、SR部を新設し、SR活動を円滑に行うため同社と秘密保持/業務委託契約を締結し、ファナックに対話窓口を設置する、とある。同社は、ファナックのSR部門創設段階から支援を開始している。<br/><br/>また、大塚家具<8186>のプロキシーファイトにも関わった。創業者である父親側を支援したことにより結果的には株価が上がり、父親側も次の事業資金を獲得することにつながっており、これからは株主側が勝てる時代になってきたと言える。<br/><br/>(執筆:フィスコ客員アナリスト 福田 徹)<br/><br/>

<HN>