■中長期の成長戦略<br/><br/>1. 導出済みプログラムの状況<br/>ラクオリア創薬<4579>はこれまでにヒト領域で4つのプログラム、動物領域で2つのプログラムを導出済みだ。導出済みプログラムは同社の事業収益の大部分を生み出している。導出契約締結に際しての契約一時金収入と、導出先の医薬品企業から臨床開発の進捗や製造販売承認申請、上市といった節目ごとに受け取るマイルストン収入の2つがこれまでの同社の収入源だったが、動物薬が上市されたことで、創薬企業にとっての究極のゴールとなるロイヤルティ収入の計上が2017年12月期からスタートする見通しとなっている。<br/><br/>(1) EP4拮抗薬(RQ-7/grapiprant、動物薬)及びグレリン受容体作動薬(RQ-5/capromorelin、動物薬)<br/>同社は愛玩動物における急性及び慢性疼痛を適応症とするグラピプラントと、愛玩動物における食欲不振・体重減少を適応症とするカプロモレリンについて、米Aratanaに導出済みだ。Aratanaは2つの化合物について順調に開発を続け、グラピプラントについては2016年3月に、カプロモレリンについては2016年5月に、それぞれ米FDAから製造販売の承認を得た。これを受けて、AratanaはグラピプラントをGalliprant®の商品名で、カプロモレリンをEntyce®の商品名で、それぞれ販売することを決定した。<br/><br/>Aratanaはまた、Galliprant®についてはEli Lilly and Companyの動物薬部門を担うElanco Animal Health(以下、エランコ)との間で戦略的提携を締結した。その内容は、エランコがGalliprant®の全世界における独占的な開発・製造・販売の権利と、米国におけるAratanaとの共同販売の権利を取得するというものだ。この戦略的提携は、同社にとっては大きなポジティブ要因であると弊社では考えている。エランコの開発力と世界的販売網が加わることで、開発の加速と売上規模の最大化が期待できるためだ。言うまでもなくそれは同社が受け取るロイヤルティ収入の最大化につながる。<br/><br/>Galliprant®の販売は、当初は2016年秋と発表されていたが2017年早期に延期された。その後、2017年1月に予定どおり米国で販売が開始され、同社は販売開始に伴うマイルストン収入を受領した。今後は、Galliprant®の売上高の一定割合をロイヤルティ収入として受け取ることになる。ロイヤルティ収入は、同社の2017年12月期から計上されてくる見通しだ。<br/><br/>Entyce®の販売は、当初は2017年2月と発表されたが、2017年後期へと延期が発表された。Entyce®についてもGalliprant®と同様に、販売開始に伴うマイルストン収入とその後のロイヤルティ収入が期待されるが、ロイヤルティ収入については実体的に同社の収益に貢献してくるのは2018年12月期からとみられる。<br/><br/>Galliprant®、Entyce®ともに、発売が決定しているのは米国市場であり、今後は欧州での発売が注目点となる。Galliprant®は2016年2月に承認申請済みで、2018年の欧州での発売が見込まれている。Entyce®は現在承認申請の準備中で、2018年の承認申請、2019年の販売開始というスケジュールが計画されている。また、Entyce®についてはAratanaが2016年12月に猫への適応拡大を企図した毒性試験を開始した。<br/><br/>これら動物薬の年間売上高(米国内分)については、Aratana社内でも日本円で25億円~80億円と幅を持って見られているが、Galliprant®、Entyce®それぞれ年商50億円というのが現実的な目標値とみられているもようだ。Aratanaはこれら2剤について全世界での販売権を持っているが、当面は米国において、2剤合計で100億円をターゲットに売上拡大を目指すとみられる。将来的には、欧州での発売も視野に入れており、欧州が軌道に乗った場合には、2剤2地域で、それぞれ50億円の年商を獲得して、総額200億円規模の売上高に達する可能性がある。<br/><br/>(2) カリウムイオン競合型アシッドブロッカー/P-CAB(RQ-4/tegoprazan)<br/>カリウムイオン競合型アシッドブロッカー(Potassium-Competitive Acid Blocker、P-CABと略)/(RQ-4/tegoprazan)は胃食道逆流症を主たる適応症とするもので、既存の主流であるプロトンポンプ阻害薬(Proton Pump Inhibitor、PPIと略。代表的なものに、第一三共<4568>の『ネキシウム®』、武田薬品工業<4502>(以下、武田)の『タケプロン®』など)の置き換えを狙う次世代新薬として期待されている。P-CABの開発においては、武田がトップランナーで『タケキャブ®』を2015年2月に発売済みだ。同社はそれに続くポジションにある。<br/><br/>同社のP-CABは一般名をテゴプラザン(tegoprazan)と言い、韓国・台湾・中国及び東南アジア地域について、韓国CJヘルスケアに導出済みだ(日本を含めたそれ以外の地域についての導出はまだ済んでおらず、その点では導出候補プログラムでもある)。そのCJヘルスケアは、韓国において第3相臨床試験を実施中であり、現時点では2017年中に第3相試験が終了する見通しとなっている。<br/><br/>その後は、CJヘルスケアは速やかに新薬承認申請の準備に移行するとみられるが、実際に新薬承認申請を行うタイミングはまだ定まっていない。適応症を絞って上市のスピードを優先するようなケースでは2017年中の承認申請⇒2018年の新薬発売ということも考えられる。一方、適応症を一括して承認申請の場合は準備に時間がかかるため2018年の承認申請⇒2019年の新薬発売となるとみられる。この点は同社のコントロールが及ばない部分であり、同社の中期経営計画の業績目標においては保守的にみて2018年の承認申請のケースを想定しているものとみられる。<br/><br/>同社への収益インパクトとしては、開発の進捗に応じたマイルストン収入と、上市後のロイヤルティ収入がある。注意が必要なのは、韓国の医薬品の市場規模が日本市場を大きく下回ることだ。CJヘルスケアの韓国国内市場での売上高は年商50億円程度とみられる。弊社ではCJヘルスケアからの各種収入にも期待をしているが、それ以上に、テゴプラザンの日本及び欧米地域等を対象としたライセンスアウトにつながることを期待している。<br/><br/>(3) 5-HT2A/D2拮抗薬(RQ-3/ジプラシドン)<br/>ジプラシドンは統合失調症、双極性障害を適応症とする医薬品で、既にファイザーから欧米を含む83の国と地域で発売済みである。同社は日本国内の権利をファイザーから取得し、Meiji Seikaファルマにライセンスアウトした。Meiji Seikaファルマの開発状況は、2015年3月に第3相臨床試験を開始し、現在実施中という状況だ。今後、第3相臨床試験が順調に進めば、2018年1月に第3相試験を終了し、2019年春には新薬承認申請ができる見通しとなっている。<br/><br/>同社への業績インパクトとしては、まず、新薬承認申請や上市などの節目においてマイルストン収入が得られることになる。また上市後は売上に応じたロイヤルティ収入が入ることになる。日本の統合失調症の治療薬の市場規模は約1,600億円と推定されている。大塚製薬(大塚ホールディングス<4578>)のエビリファイ及び第二世代(非定型)統合失調症治療薬などが有力なシェアを有しているが、ジプラシドンは既存の第二世代統合失調症治療薬と同等の効力を有しながらも、体重増加や血糖値上昇などの副作用が少ないことが特長とされており、単剤のみならずエビリファイとの併用が期待されている。市場規模と想定される用法等から考えて、年商100億円以上の医薬品に成長する可能性があるとみられる。<br/><br/>(4) 5-HT4部分作動薬(RQ-10)<br/>RQ-10は胃不全麻痺、機能性胃腸症、慢性便秘などを適応症とする化合物である。韓国・台湾・中国・インド及び東南アジア市場を対象に、韓国のCJヘルスケアに導出されている。しかし現状は、CJヘルスケアはテゴプラザンの開発に専念しているため、RQ-10の開発は開始されていない状況にある。<br/><br/>(5) EP4拮抗薬(RQ-7/grapiprant)<ヒト領域新規医薬品><br/>グラピプラントは急性及び慢性炎症性疼痛を主適応症とする化合物で、ヒト領域では日本の丸石製薬(株)に日本を対象とした注射剤としての権利を導出済みである。丸石製薬は現在、前臨床試験段階にあり、開発戦略及び開発計画を構築中だ。同社は自身が持つ医学的及び研究開発における知見をもとに、丸石製薬の計画策定をサポートしていく方針だ。<br/><br/>(執筆:フィスコ客員アナリスト 浅川 裕之)<br/><br/>

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