イランが中東をひっかきまわすことを前提とすると、大きな勢力として存在するレバノンのシーア派の存在は無視できない。特に、イランが支援しているヒズボラの存在が特に気がかりになる。そのような状況下でカルロス・ゴーンがレバノンに逃亡したことは、時期をやや誤ったと考えられる。カルロス・ゴーン自身はレバノンで勢力が大きいキリスト教マロン派の人であり、現大統領の党派であるFPM(自由愛国運動)と接触したとも言われている。<br/><br/>なお、ヒズボラは現大統領派の党派のFPMと、その他シーア派の党派(アマル)等と連合している。基本、議席は宗派ごとの割り当てであることを念頭に置く必要がある。<br/><br/>レバノンでは、腐敗に対するデモが発生している。今のレバノンの宗派割り当て等からくる腐敗に辟易している庶民から見たら、カルロス・ゴーンはレバノンの腐敗エスタブリッシュメントの一員である。これに加えて、ソレイマニ司令官殺害の余波でヒズボラに対して武装闘争の指示がイランから発せられるかもしれない。このほかに、今の大統領との連合は、以前のレバノン紛争の経緯も考えるといつ崩壊するのかがわからない状態でもある。マロン派も以前の内戦と紛争や地域の利権によっては必ずしも一枚岩でない。宗派問題が再燃しかねない、ここぞという時期に、カルロス・ゴーンはレバノンへ逃亡したということになる。ソレイマニ司令官殺害によって、内戦や紛争再燃の可能性が一気に高まったが、ソレイマニ司令官殺害前でも微妙と言えば微妙な時期だった。自身が主張する人権問題を本当に問題視するのであれば、腐敗するレバノンでなく、身に着けていたフランスの旅券でフランスへ逃亡すべきだったのだろう。そうしなかったのは、やはりレバノンの腐敗状態の甘い汁を吸いたかったのだろうという感想が沸く。今やインターポールから指名手配されるため、先進国へ逃亡は難しい。今後のカルロス・ゴーンは、生存戦略として自分の主張が通りやすいマロン派の民兵・党派を組織することも選択肢の一つとなる(庶民から良く思われていない状況を考慮すれば、自営団を組織する可能性の方が高い)。その場合は、他派閥から暗殺対象として見られるという茨の道が待っていることになる。<br/><br/>地経学アナリスト 宮城宏豪<br/>幼少期からの主にイギリスを中心として海外滞在をした後、大学進学のため帰国。卒業論文はアフリカのローデシア(現ジンバブエ)における経済発展と軍事支出の関係とその周辺の要因についての分析。大学卒業後は国内大手信託銀行に入社。現在、実業之日本社に転職し、経営企画と編集(マンガを含む)も担当している。歴史趣味の延長で、日々国内外のオープンソース情報を読み解いている。<br/><br/>

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